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○基本的な考え方
声を出すこと、歌うことというのは、立つこと、歩くこと、腕を上げ下げすること。腰掛けることなどなどと同様に、人間にとってすでに与えられている機能であって、何か人工的なやり方を加えないとそれができないというわけではない。手を上げるとはどういうことか。意思に基づく信号が脳から神経を伝って筋肉を動かすこれらのことが瞬時に意識しないで普通にできてしまう。そうしたことが歌唱の場合でも同様にある。先ず、歌唱については、考えて構えなければそれができないということではなく、人に本来与えられている機能をそのまま実現して行くということが基本になる。
次に声とは一体何かということになると、これは息そのものであり振動する空気である。肺から出る息が喉頭を通る時に声帯の振動によって声に変わる。そして口腔や鼻腔など共鳴する場所を通って身体から出て行くということ。
小学生、大人、老若男女、人種に関係なく健康であれば誰でも本来はよい声が出せるものである。
しかしながら各人はそれぞれの環境によって話し方、歌い方は様々に変わっていく。そして癖を獲得していくようになる。思うように声が出ない、話しにくい、歌いにくいというのは悪い癖がそれを邪魔しているからである。癖を直して正しい方へ向けてやることができれば、声は自由になっていくことができる。
本来持ち声などというものはない。ただ息が喉を通って身体の外に出て行くその過程で千差万別の声がその時その時に起きるということである。